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ホラー・モーテル <後編>

 
 

 本当は、自分も外に出ていきたかった。確かに、こんな部屋よりは車の中で眠る方がまだましだ。しかし、竜太(りゅうた)のいる車には意地でも戻りたくない。
 昼にチリドッグを食べて以来、何も腹に入れてなかった。車の中にはポテトチップとビーフジャーキーの残りがあるが、それを取りにのこのこ出ていくのも癪にさわる。それにどうせ、竜太にもう食べられてしまっただろう。
 その時、車の停まる音が聞こえた。陽に灼けて色褪せたカーテンを開けて窓から外を窺うと、オフィスの前に3台のピックアップ・トラックが停まったところだった。暗くてよく見えないが地元の車らしい。
 車から数人が降り、足早にオフィスに入っていった。しばらく見ていたが、オフィスからは誰も出てこない。やはり、地元の連中の寄り合いか何かだろう。
 眠るしかないと諦めてベッドに転がった時、ドアーがノックされてドキッとした。
「さっきは悪かった」
 ドアーの外に、神妙な顔の竜太が立っていた。
「入っていいか?」
「こんな部屋でよけりゃあ、どうぞ」
 嫌味を言って、豪(ごう)は竜太を中に入れた。陰気臭い部屋に1人いて、豪も実は心細かった。
「やばいよ、ここ」
 豪がドアーを閉めると同時に竜太が言った。
「何がやばいんだよ?」
「人が集まってんだよ」
「それは見たよ。それで、何がやばいんだよ?」
「見えなかったのか?」
「何が?」
「みんな、革か何かでできた黒いマスクで顔を隠してるんだよ。カルトか何かの集会だよ。やばいよ、ここ」
 その時、呻き声とも唸り声ともつかない、喉から血を絞り出すような声がオフィスの方から聞こえた。動物の遠吠えのようにも聞こえるが、間違いなく人間の声だ。究極の苦痛を与えられると、人間はあんな声を出すのかもしれない。
「何だよ?あれ」
 豪が竜太を見た。
「やばいよ、ここ」
 竜太は脅えた顔で同じことを繰り返す。
「ここ、出るか?」
 豪が小声で言うと、竜太は無言で頷いた。
 外の気配を窺ってから2人は車に向かって走った。気味の悪い声が、断続的にオフィスの方から聞こえてくる。
 豪はヘッドライトを点けずに車をそろそろと走らせ、モーテルの灯りがルームミラーの中で消えたと同時にアクセルを踏み抜いた。
 漆黒の空に青白い三日月が浮いている。人の群のような林の影が追ってくる。荒れた道にハンドルが取られることも構わず、豪はアクセルを踏み続けた。竜太は、後ろのシートに投げたロードマップを開き直して目を凝らしている。さっきまでと違い、その目は真剣だ。
 ここから逃げ出さねばという想いが、2人の気持ちを1つにさせていた。

終わり