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一番淋しい道 <前編>

 
 

 アメリカ、ネバダ州のど真ん中を西から東へ横断する州道50号線にはニックネームがある。「Loneliest road in America」−−つまり、「アメリカで一番淋しい道」。
 ネバダの山岳地帯に銀の鉱脈が発見されたのが1862年。1849年がピークの、カリフォルニアのゴールドラッシュの少し後のことだ。シルバーラッシュが原野に人を呼び、山間の谷や砂漠の端にいくつものブームタウンがつくられた。銀やトルコ石を求めて人が集まった時代はしかし長く続かず、金目のものが掘り尽くされると潮が引くように騒ぎは去り、後に、時代に乗り遅れた人々といくつかの集落がネバダ山中に取り残された。130年前に時間が止まってしまったような集落を結んで延びる50号線は、だから「アメリカで一番淋しい道」と呼ばれる。
 標高1000メートルから2000メートルの間を上り下りしながら、灰色の道は山並みの奥へ分け入ってゆく。掠める集落はどれも寒々しく、暮らしの活気はおろか人の気配さえ稀薄だ。風雨に晒されて朽ちかけた廃屋も多い。
 水島(みずしま)は、辛うじて町らしい集落、オースチンでガソリンスタンドとカフェを捜した。カリフォルニアとの州境まではまだ300キロ近くあるし、山の風のせいで体が冷えきってしまった。6月だというのに、山間の日陰にはまだ雪が残っている。
 罅割れたアスファルトの道が急角度で上ってゆく。メインストリートを挟んで、色褪せた木造の家並みが斜面にへばりついている。二つのガソリンスタンドとミニマーケット。1軒の食堂とカフェと酒場。小さな教会とシェリフの詰所・・・。目立つ建物はそれくらいしかない。
 Mobilのスタンドには、赤いアポロキャップの少年が1人しかいなかった。痩せた少年で、肩を落としてだらだら歩く姿には覇気がない。高校生くらいだろうか。
「バイトか?」
 馴れない手つきで給油口にノズルを差し込んだ少年に声をかけた。
「週に四日、学校が終わってから働いている」
 少年は水島の目を見ず、呟くように言った。人と喋るのが苦手らしい。
「この町の産まれ?」
「違うよ。親父が鉱山技師で、こっちに仕事があったから連れて来られたんだ」
「淋しい町だよな」
「何もない町さ。フリーウェイを走って、早く別の場所に行きたいよ」
「で、バイトして金を貯めているのか?」
「バイト代は弾代で消えちゃう」
 少年はGパンのポケットをまさぐり、数箇の細長い弾丸を水島に見せた。レミントン・ライフルの弾丸で、一発3ドルするという。
「どんな動物を射つんだ?」
「こんな所に動物がいると思う?」
 帽下の庇(ひさし)の下の目がチラリと水島を見た。人を小馬鹿にしたような、やけに大人びた目だった。

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