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(いびつ)な世界 <後編>

 
 

「堅苦しく言えば、測量と資源調査の仕事です。最新型のセスナやヘリコプターに乗り、放射線、磁気、電磁波、レーザーなんかの最先端技術を使って測量したり、地中の資源を調べるんです。クライアントは、それこそ世界中の政府や多国籍企業ですよ」
「ここでは何を調べてるの?」
「ボツワナ政府の依頼で地下の水脈を捜しているんです。この国も砂漠化が大問題ですからね」
 ここに来て、すでに2カ月。地下水脈が見つかるまでは、夜明けから日没まで空を飛び続けるハードな毎日だという。最先端の機器を駆使し、低空飛行でデーターを集める仕事は危険で神経をすり減らすが、その分報酬は破格らしい。
 トムの会社は南アフリカのヨハネスブルクに本社を置く世界最大の資源リサーチ会社で、クライアントは50以上の国家と多国籍企業。世界中から集めた、優秀で命知らずのパイロットと技術者400人が、今この瞬間も世界中の空を飛んでいるという。水、石油、天然ガス、金、ダイヤモンド、その他のレアメタル・・・。およそ金になりそうなものなら何でも捜し出すのが彼らの仕事だ。
 仕事はハードでストレスが溜まるばかりでなく、もっと直接的な命の危険とも常に隣合わせらしい。調査のために超低空飛行したり、悪天候をついて飛ぶことも多いから事故も多く、トム自身も死にそうになったことが2度あると言った。それに、紛争地帯の上空を飛んで撃墜された仲間も何人もいるらしい。政府側に雇われれば反政府側から、反政府側に雇われれば政府側から攻撃されるというわけだ。仕事の性質上、誰に何の目的で雇われたか公表できない場合も多く、その死すら闇から闇へ葬られるケースもあるという。
「あと10年働いて金を貯めたら、この仕事はきっぱり辞めますよ」
トムは、2杯目のスプリングボックを呷ってから肩を竦めた。
「あと10年経っても、君はまだ35歳。その先はどうするの?」
「世界中をバイクで旅します。死ぬまで遊びますよ。だって35歳から先なんておまけみたいなもんじゃないですか」
 そう答えたトムが、ひどく年寄りに見えた。
 腕時計に目をやったトムが、突然席を立った。
「10時には眠るのが規則なので、お先に失礼します。お互い無事だったら、またどこかで会いましょう」
 トムは橋詰(はしづめ)のための3杯目のスプリングボックをウェイターに注文し、足早にバーから出ていった。

 翌未明、橋詰はすぐ上空を掠めた飛行機のエンジンに起こされた。トムが乗る飛行機だろう。窓の外はまだ仄暗い。今日もまた、地中の水脈、いや金脈を捜して日没まで空を飛ぶのだろう。少数民族が滅んでゆき、部族同士が殺し合い、マラリアとエイズで子供がバタバタ死んでゆく大地の上を・・・。
 世界は極端に歪(いびつ)だと、橋詰は改めて思った。

終わり