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海から帰る <前編>

 
 

 定規で引いたような一直線の道が海に分け入ってゆく。マイアミから南へ延びるハイウェイ1号線はメキシコ湾に浮かぶ島々を繋ぎ、やがてアメリカ最南端の島、キー・ウェストで海に消える。その僅か160キロ南には、革命後43年経ってもアメリカに頭を下げようとしないキューバが頑と横たわっている。
 陽射しは強いが、風は乾いていて爽快だ。1200ccの鋼の心臓が、力強い鼓動を体の下から突き上げてくる。マイアミの友人から借りた古いアメリカン。日本ではオーソドックスなヨーロピアンを走らせている大木(おおき)だが、アメリカの旅にはやはりチョッパーが似合うと思う。
 コンクリートの道が白く光っている。白く光る道が、銀色に煌めく海を切り裂いて延びてゆく。キーウェストまで170キロの工程の中程にあるセブンマイル・ブリッヂは、11キロに及ぶ橋がつくった、まさに海上の道。そこに至れば360度が海で、道を走るというより、パワーボートで水上を疾走する気分になる。
 キー・ウェストに着いた時は午後1時を回っていた。ヘミングウェイの家を見、彼が通ったというバー、「スロッピィ・ジョーズ」で簡単な昼食をとってから道を折り返した。観光客で騒がしい場所には興味がない。それより、1人で海上の道を走り続けることの方が大木には大切な時間だった。
 復路の中程の島で、1号線沿いのモーテルに部屋をとった。オフシーズンで一泊70ドル。このあたりは冬がハイシーズンで、その頃には部屋代が倍になるという。
 簡素なモーテルで、裏側は海に面している。シャワーを浴び、近くのミニマートで買った缶ビールのパックを手に海辺に出た。海に向かって並んだプラスチックの椅子に座り、缶ビールのプルトップを引き抜く。
 冷たいビールを甘く感じる。日没は午後8時過ぎだが、6時も近いとさすがに陽射しも弱まり、海からの風も涼しい。
 日陰で犬がうたた寝している。海に浮かぶ顔の長い鳥はペリカンだろうか。水平線を、フィッシングボートや海老獲りの漁船が滑ってゆく。
静かだ。世の中から急かされない、揺蕩(たゆた)うような時間が流れている。
 こんな所で暮らせたらなと思い、しかしすぐに、1週間もいたら飽きてしまうだろうと思い直す。こういう場所は、時々訪ねるからいいのだと・・・。

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