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キャンプグランド <前編>

 
 

 インターステイト17号を南下してフェニックスを抜け、10号、8号と乗り継いでから州道85号に下りた。この道を南下し、ワイという町の分岐点から東に向かえばパパゴ・インディアンの居留地に突き当たる。
 フリーウェイと違い、州道は道幅が狭く、交通量も少ない。すぐに陽が沈んだが、いくら走ってもモーテルはおろか、コーヒーショップの灯り一つ見つからなかった。
 闇の中に、小さな灯りが心細そうに滲んでいた。ワイは、町というよりは、何軒かの商店と住宅が原野の中で身を寄せ合うだけの淋しい集落だった。
 ワイには宿がなかった。ガス・ステーションの店員に訊くと、居留地の中にも宿らしい宿はないと言う。泊まるなら、町外れのキャンプグランドしかないと素っ気ない。健作(けんさく)はバイクにガソリンを入れ、隣のハンバーガーショップで粗末な夕食をすませてからキャンプグランドを捜した。
 キャンプグランドは、分岐点から86号に入ったすぐ左手にあった。「COYOTE HOWLS PARK」の看板の下に、「いらっしゃい。オフィスでチェック・インして下さい」と、白いペンキで書かれている。
 山小屋のような形のオフィスの灯りは消えていて、人気がなかった。夜になるとスタッフは帰ってしまうらしい。入口の脇の箱に、「夜、到着した人は料金をここに入れて下さい」と小さく書いてある。宿泊料金は、車1台につき1泊5ドル。箱の上には、トイレやシャワーの位置を記した場内の見取り図のコピーが何枚か置いてある。こんなやり方で、ただで泊まってしまう者はいないのだろうか。
 キャンプグランドは思っていた以上に広かった。細いダートの道が何本も交差して延び、その両脇に区画番号を記したキャンプサイトが整然と並んでいる。手前の方が一晩だけ利用するキャンパーのための場所で、奥の方に長期滞在者用のキャンプサイトが広がっている。キャンピング・カーやトレーラー・ハウスのものらしい灯りが闇の先でチカチカ瞬いているが、灯の大きさから推測するとそこまでの距離は相当にありそうだ。
 入口近くのキャンプサイトには人がいなかった。水洗トイレと温水シャワーが完備された洗面所に近いサイトにバイクを止め、グランドシートの上に広げたシュラフの中に潜り込む。
 頭上で、ガラスの破片を撒き散らしたような星たちが音もなく回転している。遠くの闇の中で息を潜めるキャンピング・カーたちは、旅に疲れてここに根を張ってしまった者たちの塒(ねぐら)なのだろうか。夢を追って流れた末に、原野の隅で死んでゆく者たちがアメリカには少なくないと聞いた。そういう連中の葬式や墓はどうするのかと考えながらポケット瓶のバーボンを舐めている内に、健作の目蓋が重くなってきた。

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