100枚の絵ハガキ Back  
   
     

国境の町 <後編>

 
 

 ホテルが多いのにも驚いたが、その殆どが満室であることにもっと驚かされた。やっと部屋を見つけたのは、五軒目の、民宿のような小さな部屋だった。明日がマレーシアのとある王様の誕生日で、休日を利用して遊びに来たマレーシア人が多いのだと宿の主人が説明した。やはりその殆どが、タイの女目当ての男たちらしい。
 町をぶらつくと、タイの女を連れて歩くマレーシア人や中国人を沢山見かけた。徒党を組んでバスで国境を越え、タイの女を一夜妻にして羽根を伸ばすという。
 町外れの暗がりに、数十軒の置屋が軒を連ねる路地があった。しかし、殆どの家は灯りが消えていて閑散としている。暗い路地にたむろするのは地元の若者やポン引き風の男ばかりで、女の姿はない。
 「うちは大丈夫よ。女の子いるよ」
 スクーターに跨った男が及川(おいかわ)に声をかけてきた。
 「どうしたの?いつも、こんなに淋しいの?」
 「今晩は自粛しろって、警察からお達しがあったんだ。なんでも、マレーシアの王様の誕生日だからって話だ。でも大丈夫だよ、みんな表の灯りを消しているだけだから」
 「ここの女たちはどこから来るの?」
 「北の方から来る女が多いよ。白人は黒いのが好きだけど、マレーシア人や中国人は色白が好きだからな。北タイは色白の美人が多い。マレーシア人や中国人の好みの女が多いんだ」
 「北タイばかりじゃなくて、ラオスやベトナムからも来るぜ。ベトナムの女がよかったら俺の店に来いよ」
 別のポン引きが、脇から話に割り込んできた。
 「こんな所に、こんな町があるなんて知らなかったよ」
 「世界中どこだって同じさ。金を持ってる男がいる所には女が集まる。女が集まる所には男が金を持ってやって来る。あんたの国だって、こんな町がいくらでもあるだろが」
 ポン引きは訳知り顔で言った。
 「回教徒は自分の国じゃあ女と遊べない。でも、男には変わりがないからな。だから、わざわざタイまでやって来る。あいつら、タイのことを無法で野蛮な国とか言ってるけど、結局、ここに来て遊ぶんだ。お陰で、俺たちも飯が食えるってわけだけどな」
 ポン引きは、少しだけ自虐的な笑みを浮かべて見せた。
 人間の欲望は国境など平気で越えてゆく。人や金や物の流れを国境で止めることなどできっこない。なのに、どこの国も未だに国境にこだわり続けている。
 まっ暗な熱帯雨林の只中に、スンガイコロクの町がボッと白く浮き上がっている。そこを行き交う男や女たちが、巨大な誘蛾灯に誘われて集まる、ちっぽけだがしぶとい虫たちに見えた。

終わり