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No.50

最悪の道 <前編>

 
 

 ブラジルとボリビアの国境の集落、コルンバでガイドの島崎と合流した。島崎はボリビアへ移民した日本人で、テレビドキュメンタリーのロケや辺境ツアーのコーディネーションとガイドで生計を立てている。
 「このルートは、どんな具合ですか?」
 島崎の前にバーソロミューの地図を広げる。ブラジルからボリビアへ入る陸路は1本のみ。国と国を繋ぐ唯一のルートだし、ボリビア道路公団発行のロードマップにも、そのルートは太く赤い実線で記されている。常識的に考えれば、これは誰がどう見ても「道」であるはずなのだが。
 「このルートは、ブラジルとボリビアを行き来する密輸業者たちのルートなんです。ブラジルで盗んだ車をボリビアで売り払う連中が、ジャングルの中を無理矢理走っている内にできた轍みたいなものなんです。それを、ボリビアの道路公団が道として地図に書き入れちゃったんです」
 「相当ひどいですか?」
 「自慢じゃないですが、ボリビアの道のひどさは世界一級です。悪路のワールドカップがあったら、ベスト4には必ず入るでしょう」
 脳天気な島崎が他人事のように続ける。
 「ボリビアの道は殆ど知っていますが、実は、このルートだけは走ったことがないんです。どんな感じなのかなー」
 「どっちにしろ、相当きつそうですね」
 「ま、覚悟はしておいた方がいいでしょうな」
 頼もしいんだか、よく分からない男である。がしかし、ここに至っては島崎を頼りにするしかない。ブラジル国境からボリビアの町らしい町、サンタクルスまで750km。道は1本しかないのだ。
 ブラジル側は国境まで舗装路だった。一歩ボリビアに入った途端、ルートはジャングルを分けて進む、心細い泥のトレイルに変わった。雨季の時に掘られた轍が乾いて、深さ30cmほどの溝になっている。大きくて深い穴がいたる所に黒い口を開け、日中でも陽の当たらない部分は湿っていてタイヤが泥に滑る。道幅は、車のボディが枝や葉を擦るほどに狭い。
 数キロ進むと、道にロープが張られていた。タンクトップにジーンズの男が2人出てきて、パスポートを見せろと言う。ベルトにピストルを突っ込んだ男たちはまるで山賊だったが、これでもれっきとした入管の役人なのだと島崎は言う。
 「毎月1回、ブラジルからボリビアへオートバイで入る男がいたんです。何かを密輸しているんだろうと、その度に積み荷を調べたり身体検査するんですが、怪しいものは何も出てこない。さて、この男は何をしていたんでしょう?」
 ボリビアに入ってから少しして、島崎が訊いてきた。上下左右に体が揺さぶられる悪路を進んでいるのに、まるで修学旅行気分だ。答を考えている余裕もないからギブアップすると、島崎は愉快そうに笑いながら答を言った。
 「その男はオートバイを密輸していたんですよ。木を見て林を見ざるがごとし。林を見て山を見ざるがごとし。盲点というやつですな。ハハハハハ・・・」

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