1日目、20km這い進んで開拓農場の軒先でキャンプする。2日目、陽の出から午前0時まで、18時間休みなく走って、進んだ距離は僅か220km。
1日目は、左右からジャングルが迫る泥のトレイルだった。2日目はフカフカの山砂が厚く積もったトレイルで、四駆に入れても何度かスタックした。
3日目の日没近くから、道が少しずつ上り始めた。巨大アンデスの、それ自体が一つの大陸と呼べる裾野の広がりに取りついたのだ。
泥の道に深い轍が何本も走っている。雨季の時、ぬかるんだ泥を抉って前進した密輸トラックたちのタイヤの跡だ。それが乾いて、4、50cmの深さの溝をつくっている。
「今は乾いているからいいけど、少しでも雨が降ったら、すぐに一面ぬかるみですよ」
島崎は、相変わらず他人事のような顔をしている。
「こんな道、雨季によく走るもんですね」
「初めから降ってたら、いくら無茶な奴でも走りませんよ。みんな、途中から降り出した雨に捕まる。初めは乾いていても、すぐにぬかるんでスタックする。逃げ道もないし後退もできないから、何が何でも前に進む。何日かかっても、前に進むしかないわけです」
その時、遥か彼方の稜線で稲妻が光った。原始のジャングルと山塊が、一瞬黒く浮き上がる。
「まずいな・・・」
島崎の呟きが聞こえた。この男が真顔になると怖い。何かとんでもないことが起こりそうな気になる。
霧のような雨が降ってきて、見る間に路面がぬかるみ始める。四駆のローレンジで走ってもハンドルが取られる。深いブロックパターンに粘土のような泥が詰まり、砂地仕様のタイヤがツルツルの丸坊主になってトラクションを失う。氷の上をスケボーで滑るようなものだ。車は左右に尻を振りながら、ヌルヌルの泥の上を滑ってゆく。
平地に下りた時は夜明け近かった。サンタクルスまで、残すは100km。難所を越えたと島崎が言うので、一服することにした。
「やれやれですね」
「何とか越えられましたね」
島崎も嬉しそうだ。
サンタクルスに着けば、シャワーを浴びてベッドで眠れる。ゆっくり休息して、それからアンデスに向かえばいい。本格的なアンデスへの道は、サンタクルスの先から始まる。
「サンタクルスの先は、どんな道なんですか?」
少し心配になって訊くと、島崎は何気なく答えた。
「今までの道が、畳の上のように感じるでしょう」
ジャングルの彼方に、6000m級の山塊が壁をつくっていた。