東京新聞(夕刊)2009年7月25日

あれは13年前、1996年のこと。
某番組で戸井さんとご一緒にお仕事をさせていただいたのは。
その時、戸井さんが「何年かかるが解らないがオートバイで5大陸を走破しようと思っているんですよ。」と遠くを見つめるように淡々と語っていらしたのを思い出す。

その後、1997年北米を回り、1998年にはオセアニアを回り、そして2001年にはアフリカ大陸横断の前準備でマドリーに数日立ち寄ってくれた。久々に戸井さんとマドリーのバルで乾杯出来たときは、嬉しかった。
2005年には南米を回り、そしていよいよ今年は最後の大陸のユーラシア横断。
正月明けに戸井さんから「ポルトガルからイタリアかギリシャ辺りまでご一緒にどうですか。」というお誘いの言葉をいただいた。
大変嬉しかった。最後の大陸の横断で同行させていただけるなんて光栄だ。
ただスペイン以外は右も左も言葉も解らない、戸井チームの役に立つんだろうか、という疑念が頭をもたげるが、戸井さんの「一緒に旅をしている気持ちで気軽にやりましょうよ。」の一言で気分的に楽になり「お願いします!」と頼み込んでいた。

7月初旬、マドリーでオートバイと車2台の通関。
そして準備をした後、7月9日にポルトガルのロカ岬から東に向けて出発した。
ポルトガル、スペイン、フランス、イタリアのベネチアへと走って約3,600km。
ベネチアに着いたのは7月21日。
途中、スペインのシッチェスのキャンピング場では戸井さんが皆に「カツ丼」と味噌汁を作ってくれた。
ビールを飲みワインを飲み、深夜まで戸井チームの皆さんと懐かしい日本の音楽を聞きながら色んなことを語ったことは忘れられない。
その夜、高校生以来初めてテントで寝た。実に快適であった。

またイタリアのチンクエテッレの小村で2日間滞在したことも強烈な印象として心に焼きついている。
その時も戸井さんがカレーライスを作ってくれて、「ちょっと水っぽかったかな?」と仰っていたが、とんでもない、大変たいへん美味しかったのです。
食後は皆で村の「ワイン・バー」に行ったり、隣村の祭りの花火を眺めたりと「絵に描いたような時間」を過ごした。

7月24日ベネチアでのホテルの別れの朝、私のスペイン帰りのエアー便が皆さんの出発時間より早かったため、私が皆さんに見送られることになり大変恐縮してしまった。
戸井さん始め、皆さんとしっかり握手をして別れた。

私は40,000kmの内 僅か3,600kmの同行。
戸井さんたちはこれから東に向って本格的な旅が始まる・・・。
ホテルの門を出る時、後ろを振り返ったらまだ皆さんが私を見送って居てくれた。
こみ上げそうになる涙を抑えて皆さんに頭を下げた。
戸井さん、薄井さん、宮崎さん、上田さん、同行させていただいて本当に有難う。

 

スペイン 田中 達雄
26、Julio, 2,009


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